最高裁判所第一小法廷 昭和31年(オ)657号 判決 1958年9月18日
主文
原判決を破棄する。
本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
理由
原判決は、上告組合は、その経済的基礎を確立するため昭和二三年八月頃林ごの委託販売を営むことを計画し、林ご移出業者である被上告人才助外数名の者と協議の上、上告組合は資金を調達して右林ご移出業者に貸し付け、その集荷した林ごの販売委託を受け、手数料として所定の金員の支払をうける旨協定し、次いで上告組合は右協定に基づき被上告人才助に対し、判示の期間内に数回にわたり右林ご買付資金を貸し付けたところ、被上告人才助は右約旨を履行せず多額の貸越金を生じたので、上告組合は右貸越金について被上告人直三の保証の下に判示二口の準消費貸借契約を締結したものであるとの事実を認定した上、乙第六号証(原判決に甲第六号証とあるのは、乙第六号証の誤記の認められる。)の定款によつて認められるように、上告組合は農業生産力の増進及び組合員の経済的、社会的地位の向上を図ることを目的とし、右目的を達成するため(1)組合員の事業又は生活に必要なる資金の貸付(2)組合員の貯金の受入-中略-その他右事業に附帯する事業を行うものであるが、右定款の条項と農業協同組合法一条、一〇条の規定とを対照してみるに、上告組合の如き農業協同組合は、広く一般人に対し金銭の貸付を業とするものでなく、金銭の貸付はひとり組合員のみに対してなし得るものであること明白であり、非組合員に対する貸付を前記定款所定の附帯事業の中に包含するものと解することもできないのであつて、従つて本件貸付は無効のものたるを免れず、被上告人直三の保証もまた無効に帰すべき筋合であると判示していることは、原判文上明らかである。しかしながら、右判示前段認定の事実関係の下においては、上告組合は、その経済的基礎を確立するため、林ごの移出業者である被上告人才助外数名の者との間にそれぞれ林ごを集荷せしめ各その集荷にかかる林ごの委託販売をうけ、所定の手数料を受くべき旨契約を締結し、それら林ご移出業者が林ごの集荷に要すべき資金を貸し付けることとなつたものであつて、被上告人才助に対してもその資金として判示金銭を貸し付けたものであること、本件二口の貸金は右貸付金の帳尻を準消費貸借に改めたものであることが明認し得られるのであるから、右は被上告人才助が上告組合の組合員でなくとも、特段な事情の認められない限りは、少くとも右にいわゆる上告組合の事業に附帯する事業の範囲内に属するものと認めるを相当とする。
しからば、原判決が右特段な事情につき何ら言及することなく、本件貸金が組合員でないものに対して貸し付けられたものであり、又それが前記定款にいわゆる附帯事業の内に包含されるものとも認め難いとして、これを無効であると判示したのは、審理不尽ないしは理由不備のそしりを免れない。
よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項により、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)